妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
兄の靴もあるため友人でも遊びに来ているのかと考えたが、すぐに違うと考え直した。
誰か友人を招く時、兄は必ず前もって私の許可を得ようとするからだ。
私はなにも聞いていない。いったい誰がいるの?
リビングへと一歩一歩進んでいくたび、嫌な予感も膨らんでいく。
恐る恐る扉を開けてリビングを覗き込み、見えた姿に思わず息を飲む。
ダイニングテーブルに向き合う形で兄と叔父が座っている。
「美羽ちゃん、遅いじゃないか。嫁入り前の娘がこんな時間まで出歩いていちゃダメだ」
時刻は午後十時四十分。こんな時間と言われるほど遅くはないと反論したくなるが、叔父の機嫌を損ねるのは賢明じゃないと考え曖昧に笑うにとどめた。
「叔父さんが家に来るなんて珍しいですね。今日はどうしたんですか?」
殺伐とした空気を感じながら恐々と問いかけた瞬間、バンと叔父がテーブルを叩いた。
「どうしたじゃない。なかなか言い訳をしに訪ねてこないから、こちらからやってきたんじゃないか。高志と青砥の家の前で会ったんだってな」
「は、はい。会いました」
恭介君とのやり取りまで、高志さんからしっかり聞いているのだろう。叔父は不機嫌な顔を崩さない。
兄が「叔父さん」と鋭く口を挟んでも、視線を揺らすことなく私をじっと見つめ続けた。