卒業まで100日、…君を好きになった。
ひとりじゃないから。
がんばれるから。
わたしの答えに、平くんはほっとしたようにうなずいた。
「送るよ」
「ありがとう、平くん」
「あ。待って。はい、これ」
「手袋……?」
それは平くんの手袋だった。
少し大きいそれを片方だけ渡される。
「平くん、これ」
「春川さんは左手ね」
「え」
「俺は右手」
平くんが右手に手袋をはめる。
視線でうながされて、わたしも左手に手袋を。
あったかい……。
「残った手はこっち」
「え……っ!」
すいと手をとられて、大きな固い手に包まれる。
そしてわたしの右手は、彼のコートのポケットに吸いこまれていった。
瞬間湯沸し器みたいに、顔が一気に沸騰したように熱くなる。
これ、どうしたらいいの……!
なんで? いったいどうなってるの?
パニックになりながら、それでも右手は彼のポケットに留まった。
強く握られていたのもあるけど、あんまり心地よくて。
「行こうか」
「は、はい……」
彼がフードをかぶったかどうかも、見る余裕はなかった。
わたしたちの歩調はゆっくりなのに、胸の鼓動だけがどんどん走り出す。
胸が苦しい。でも、嫌じゃない。
恥ずかしさにも似た、このどうにも抑えきれない感情をわたしは知っている。
以前弟の平くんに抱いた感情と、同じものだ。
どうしよう。
平くんの手の温かさと大きさにときめきながら、わたしは夜空を見上げ途方にくれた。