卒業まで100日、…君を好きになった。

ひとりじゃないから。

がんばれるから。


わたしの答えに、平くんはほっとしたようにうなずいた。



「送るよ」

「ありがとう、平くん」

「あ。待って。はい、これ」

「手袋……?」



それは平くんの手袋だった。

少し大きいそれを片方だけ渡される。



「平くん、これ」

「春川さんは左手ね」

「え」

「俺は右手」



平くんが右手に手袋をはめる。

視線でうながされて、わたしも左手に手袋を。


あったかい……。



「残った手はこっち」

「え……っ!」



すいと手をとられて、大きな固い手に包まれる。

そしてわたしの右手は、彼のコートのポケットに吸いこまれていった。


瞬間湯沸し器みたいに、顔が一気に沸騰したように熱くなる。


これ、どうしたらいいの……!

なんで? いったいどうなってるの?


パニックになりながら、それでも右手は彼のポケットに留まった。

強く握られていたのもあるけど、あんまり心地よくて。



「行こうか」

「は、はい……」



彼がフードをかぶったかどうかも、見る余裕はなかった。


わたしたちの歩調はゆっくりなのに、胸の鼓動だけがどんどん走り出す。

胸が苦しい。でも、嫌じゃない。


恥ずかしさにも似た、このどうにも抑えきれない感情をわたしは知っている。


以前弟の平くんに抱いた感情と、同じものだ。



どうしよう。

平くんの手の温かさと大きさにときめきながら、わたしは夜空を見上げ途方にくれた。




< 168 / 356 >

この作品をシェア

pagetop