雪降る夜は君に会いたい

葛藤と引力

 ペンダントの入った箱を大事そうに持って笑顔が絶えなくなった雪実と並んで帰路につく。
 電車を降りて薄暗くなった道を歩いていると、銀杏の樹が鮮やかな公園が見えてくる。

「ねぇ、ちょっと寄っていかない?」

 足元を銀杏色に染めるほど肌寒い風が舞っているのに、早く部屋に帰りたいと思わないのかという意見を言う前に雪実はブランコに乗っていた。

「わたし、ブランコ初めてなの!」

 勢いよく漕いでる隣で静かに腰かけて揺らいだ。

「子供の頃はブランコなんて無かったし、大人になってから一人で乗るのもねぇ」
「お前、何歳だよ」
「ふふ。内緒だよぉ」

 それから暫く二人で焼けに見とれていた。無言の空間があっても気を使わない関係の大切さをまだ感じ取れていなかった。

「ブランコってさぁ、漕いでも漕いでも前には進まないし、同じだけ後ろに下がっての繰り返し。昔ね、夜の誰もいない公園で思ったの……」

 雪実は夕日を見ながら止まらないブランコに乗ったまま話を続けた。

「人になりたいわたしと、あやかしに戻るわたし。行ったり来たり……。人にもなれずあやかしでもないわたしは結局何処にも行けずにずっと一人ぼっちだった……」

 いつの間にかブランコは止まっていた。俯いたままの雪実はまた暫く沈黙をしていたがやがて夕日に向かって言った。

「でもさ、今日お兄ちゃんと一緒にブランコ乗れてよかった。またいつか一人ぼっちになるけど、こんなわたしでも人間のように接してくれたから……ブランコを克服して一歩前進だよね」

 ニコッとこちらに向いて言った雪実の顔は沈みかけた夕日に照らされて、笑顔の奥に物悲しさを透かしたようだった。
 嬉しさと悲しさ。人の人生もまたそれの繰り返しなのだろう。対比する出来事は常に表裏一体で我々の生活を監視するかのように。
 生と死。最初で最大の表裏であろう事象は誰にでも起こりうる避けて通ることはできない。
 人は必ず男女の営みによって母体から正を受ける。一人で生まれることは無い。
 産声を上げこの世に生を受けた時、待ち望んだ出会いに周囲の者を笑顔にする。
 幾つもの出会いと別れ、歓喜と悲壮を繰り返しやがてこの世と永遠の別れの日を迎える。
 その時、笑顔で去っていける人生なのだろうか。
 泣きながら生まれ、笑顔で死んで逝く時、笑顔で迎えられ、泣きながら見送られる人生は決して孤独では得ることができない。
 誰かを愛して誰かに愛される。
 愛の裏は憎しみでは無い、もう一つの愛。
 俺はこの人生で幾つの愛を見つけれるのだろうか。
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