雪降る夜は君に会いたい
「いーじゃんかよー」
「オレっちと飲みにいこーぜ、楽しくよー」

 今度は二人の男にナンパされて嫌がる女性が目の前を足早に通りすぎる。
 本当に今夜は乱れ過ぎてため息が止まらない。
 ただ、そのコスプレをした女性はあやかし退治が先祖代々の風習でなくても助けなければならない衝動にかられる人であった。

「天野……さん?」
「え、えぇ? もしかして磐石君? いつもより随分ヲタク入ってるけどそれコスプレ?」
「なになになに? 勝手に話盛り上がって悪いんだけどキモいヲタクは用が無いからあっち行ってろ!」

 おいおい、今日は流石ハロウィン、俺をキレさせるバーゲンセール中だが相手があやかしでないと尻尾巻いて逃げるのがヲタクの特徴。リア充なんて喧嘩も強そうだからギャフンと言って逃げるが勝ちだが生憎あやかし相手だとビビる要素は一つもなかった。

「ちょっとあっちで話そうか。雪実、ちょっと天野さんと話してて」

 そう言いながら男二人を半ば強引にビルの陰に連れて行き、チャチャっと成敗して戻ってきた。

「もう大丈夫だから、ってそれにしても天野さんもコスプレするんだね」
「え、えぇ友達に連れられてちょっとね……。その友達の彼氏が浮気してるんじゃないかって一緒に来てたんだけど彼氏見つけたらはぐれちゃって、もう帰ろうかなと思ってたら今の人達に……」
「それは難儀ですねぇ。あ、雪実もう帰っていいぞ、さいなら」
「ちょっとお兄ちゃん今日は泊めてくれるって約束じゃん、もう忘れたのぉ」
「良いわねぇ歳の近い従妹で仲良いって羨ましい」
「い、従妹?」

 ニヒヒと再び腕を組んで笑顔を振りまいてくる雪実。万年の笑みで俺があやかしを退治してる間に何の話をしてたのだろうか。
 そうこうしているうちに電車が来たので三人は乗り込んだ。

「そのコスプレ、似合ってるね」
「あ、ありがと。こんな恰好してるから変な人って思ってる?」
「い、いやそんなことないよ!」

 俺は知っていた。そのコスプレがあの有名な魔法少女のキャラであることを。名前どころか声優さんや名言なんかも素で言える程何度も見直した十年に一度の神作品であることを!
 ただ、これを言ってしまえばハロウィンで面白半分でコスプレしている天野さんをドン引きさせる自信がある。それほどヲタクの常識は一般人の非常識に値するのだ。それを俺は心得ていて寸止めをする。

「今日のお礼はまた今度させてね」
「いつでもお構いなく、楽しみにしてるね」

 雪実に大きく手を振られながら俺が降りる駅の一つ手前で天野さんは降りて行った。

    ※
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