雪降る夜は君に会いたい
「わたしの言う通りにすれば生まれ変われるかもよ? まず見た目をどういかしようね、今度の日曜日空けといてね」
そう言い残してお風呂場に向かって行った。
無理だと思っていた天野さんと付き合えるかもしれないという魔法の言葉に舞い上がっていたが、初対面の男の部屋に来て主より先に風呂に入る件について疑問に気づいたのは、雪実が既に湯船に浸かっているであろう時間だった。
風呂場の扉を開ければ目の前で文句でも言えるのだが、そんな勇気は持ち合わせていず出てくるのをそわそわしながら待つしかなかった。
出てきたのでガツンと言ってやる。
「お、お、お……」
「お前なぁ、人の家で勝手に風呂にまで入ってどういうつもりなんだよ! 俺が間違い起こしたらとか考えないのか! って言いたいのかな?」
バスタオルを身体に巻いて出てきた雪実に言いたかった文句は雪実本人が代弁してくれることになった。
女性に対して免疫のない俺は、そんな恰好をされて平常でいられるはずがなかった。
「大丈夫。お兄ちゃんはわたしに興味が無いんだから」
そう言うと頭に巻いていたタオルを外し、長い髪を振り上げ同時に自身も半回転すると背を向けたままバスタオルを広げた。
素っ裸の雪実が、と思ったが白く身体が光ったかと思うと目の前には想像と期待した雪実の姿ではなかった。
帯まで真っ白でよく見ると雪の結晶が施された着物姿の雪実。髪は限りなく白に近い白銀色に染まっていた。
「裸になると思った?」
「お前……もしかして……」
「そう、お兄ちゃんの嫌いなあやかしよ」
無垢な笑顔を見せて雪実は真っ直ぐ俺を見つめて言った。
美しい……。例えそれがあやかしであろうと俺は自分の心に正直になるしかなかった……。
「だけど俺、お前の『色気』見えなかったんだけど……」
「それはね、わたし人間とのハーフだから」
「ハーフ?」
「そう。お母さんは雪女なんだけどお父さんは普通の人間だったの。だから人に化けてる時は『色気』が出ないみたいね」
「そうだったのか……」
「だからね、あやかし連中にも気味悪がられるし、人としても生活馴染めなくって転々としてるわけよ」
淡々と喋っているが時折寂しそうな顔になるのを俺は見過ごすことができなかった。
人にもあやかしにも受け入れてもらえない寂しさは孤独以上の虚しさであることは容易に想像できる。
ただ、ハーフ故に人としての可愛らしさと、あやかしの妖艶両方が身に付いているのかもしれない。
しかしそれは根拠も無く、見た目は好みの問題であって、俺の好みだからそう思っただけというのは心の奥底にしまっておくことにしよう。
好みの可愛らしさがあっても所詮、あやかし。
あやかしであっても人と変わりなくかつ、好みの可愛らしさ。
この矛盾的感覚が交互に俺の脳内を駆け巡るお陰なのだろうか、人生初めての同じ部屋で女の子と寝るイベントもそつなくこなしてしまったのは───。
※
そう言い残してお風呂場に向かって行った。
無理だと思っていた天野さんと付き合えるかもしれないという魔法の言葉に舞い上がっていたが、初対面の男の部屋に来て主より先に風呂に入る件について疑問に気づいたのは、雪実が既に湯船に浸かっているであろう時間だった。
風呂場の扉を開ければ目の前で文句でも言えるのだが、そんな勇気は持ち合わせていず出てくるのをそわそわしながら待つしかなかった。
出てきたのでガツンと言ってやる。
「お、お、お……」
「お前なぁ、人の家で勝手に風呂にまで入ってどういうつもりなんだよ! 俺が間違い起こしたらとか考えないのか! って言いたいのかな?」
バスタオルを身体に巻いて出てきた雪実に言いたかった文句は雪実本人が代弁してくれることになった。
女性に対して免疫のない俺は、そんな恰好をされて平常でいられるはずがなかった。
「大丈夫。お兄ちゃんはわたしに興味が無いんだから」
そう言うと頭に巻いていたタオルを外し、長い髪を振り上げ同時に自身も半回転すると背を向けたままバスタオルを広げた。
素っ裸の雪実が、と思ったが白く身体が光ったかと思うと目の前には想像と期待した雪実の姿ではなかった。
帯まで真っ白でよく見ると雪の結晶が施された着物姿の雪実。髪は限りなく白に近い白銀色に染まっていた。
「裸になると思った?」
「お前……もしかして……」
「そう、お兄ちゃんの嫌いなあやかしよ」
無垢な笑顔を見せて雪実は真っ直ぐ俺を見つめて言った。
美しい……。例えそれがあやかしであろうと俺は自分の心に正直になるしかなかった……。
「だけど俺、お前の『色気』見えなかったんだけど……」
「それはね、わたし人間とのハーフだから」
「ハーフ?」
「そう。お母さんは雪女なんだけどお父さんは普通の人間だったの。だから人に化けてる時は『色気』が出ないみたいね」
「そうだったのか……」
「だからね、あやかし連中にも気味悪がられるし、人としても生活馴染めなくって転々としてるわけよ」
淡々と喋っているが時折寂しそうな顔になるのを俺は見過ごすことができなかった。
人にもあやかしにも受け入れてもらえない寂しさは孤独以上の虚しさであることは容易に想像できる。
ただ、ハーフ故に人としての可愛らしさと、あやかしの妖艶両方が身に付いているのかもしれない。
しかしそれは根拠も無く、見た目は好みの問題であって、俺の好みだからそう思っただけというのは心の奥底にしまっておくことにしよう。
好みの可愛らしさがあっても所詮、あやかし。
あやかしであっても人と変わりなくかつ、好みの可愛らしさ。
この矛盾的感覚が交互に俺の脳内を駆け巡るお陰なのだろうか、人生初めての同じ部屋で女の子と寝るイベントもそつなくこなしてしまったのは───。
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