一級建築士の萌える囁き~ツインソウルはお前だけ~
「ここ、空いてますか?」

突然聞こえてきた萌音の声に、話しかけられた男性はギョッとなった。

「は、はい。大丈夫です」

萌音は何が大丈夫なのか?と思ったが、空いているという返事だろうと解釈し、三つ席を確保した。

「え、えっと、新人さん?」

「はい。建築設計部、設計課の流川です。よろしくお願いします」

「へえ、女性の建築士さんか。凄いね。俺は・・・」

「谷崎」

萌音に自己紹介しようとしていた男性の言葉を遮って、海音が男性に声をかけた。

「おお、佐和山、久しぶり。お前が社食なんて珍しいな」

どうやら海音とこの谷崎と呼ばれた男性は知り合いらしい。

チラッと名札を見れば、営業部営業課と書いてある。

今後もかかわり合いがあるかもしれない、と心に留めて、萌音は男性の隣に腰かけようとした。

すると、海音は萌音が置いたランチプレートを左横にずらし、自分のプレートをそこに置いて座った。

゛なんだよ、久しぶりに会った友人と話したいなら先に言えよ゛

萌音は心の中でそう呟くと、何も言わずに自分が左にずれることにした。

「佐和山、お前、そういうキャラだったか?」

「お前が知らなかっただけだろ?」

「で、流川さんは・・・」

「流川は俺のバディだ」

「マジで?羨ま!・・・なあ、佐和山、聞いてくれよ、俺のバディなんてさ、むさ苦しい男の上に話を聞かない頭でっかちな奴で・・・」

゛自分の知らないところでこんな風に言われたら嫌だな゛

熱々の竜田揚げを口にしながら、萌音はそんなことを考えていた。

「谷崎、新人の流川が聞いて気持ちのいい話じゃないだろ?少しは気を遣え」

確かに聞いていて楽しい話ではない。

「あ、ごめん。違うんだ。これは愚痴っていうか、自分が頼りないって落ち込んでるというか」

「私への弁解は不要ですよ。自分に関係ない話は聞き流していますので」

顔に似合わず淡々とした物言いの萌音に、谷崎は驚いた。

「大型新人だな」

「谷崎も精進しろよ」

中武主任の言葉に、ガックリ項垂れる谷崎だったが、萌音は気にせず食事を完食した。

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