一級建築士の萌える囁き~ツインソウルはお前だけ~
一方の海音は、萌音と杉田と別れてから社長室に向かった。

「親父、勝手に予定を入れてもらっては困る」

「こら、場所をわきまえなさい」

職場で゛親父゛と呼んだ海音を嗜める佐和山風太郎社長。

「今日は担当先の住宅解体作業に立ち会う予定だったんだ。俺の都合を無視しても優先しなければならない程の用事なんだろうな?」

海音は、風太郎の言葉を無視して横柄にソファに腰を下ろした。

「佐和田産業を知っているだろう?そこから新しいフレンチレストランの設計依頼が入っている。直々に海音を指名している」

「佐和田?」

海音の頭の中に、同級生で、先日、萌音とのウィンドウショッピング中に偶然出くわした、あの厚化粧で派手な佐和田の顔が思い浮かんだ。

下の名前は覚えていない。

゛佐和田の目の前で萌音との濃厚なキスを見せつけたというのに、まだ納得しないというのか゛

「断る」

「佐和田産業に何かあるのか?」

「あそこの娘とは同級だ。あいつはやたら俺にベタベタしてくるし、とにかくしつこい。一昨日も萌音とのデート中にちょっかいを出してきて、トイレに立った萌音を追いかけて何かを言ったようだ」

「萌音ちゃんをモノにできたのか?」

風太郎は、海音がずっと萌音のことを好きなことを知っている。

この春、風太郎の友人で萌音の父親である長嶺教授に、萌音を口説く許可をもらったことも承知しているはずだ。

「一昨日は萌音のマンションに泊まった。付き合ってるし、いずれは結婚するつもりだ。ずっと言ってるだろう?」

「独りよがりではなくなったんだな。めでたいことだ。だが、佐和田産業の話はお前にきた仕事だ。自分で断るなり何なり対応しなさい」

「なんで俺が・・・」

「この程度のことを逃げてて将来、社長になれるか」

仕事というより、男女間のトラブルで終わりそうな気がする。

「わかったよ」

海音は、ため息をつくと窓の外を見る。

萌音は今、杉田と二人きりで社用車に乗っている。

それだけで胸が締め付けられるように痛い。

彼女の視界に入るのも、同じ時間を共有するのも、身体に触れるのも俺だけだ。

そんなこと叶うわけもないのに。

それなら、せめて一緒に暮らせたら・・・。

そのためにはどんなライバルも横やりも排除しなければならない。

海音はとりあえずは、目の前のタンコブになっている佐和田を排除すべく動き出した。

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