一級建築士の萌える囁き~ツインソウルはお前だけ~

罠と本気

部長室に向かうと言って設計課を出ていった萌音だったが、実際に向かったのは社長室だった。

父である長嶺教授の友人である佐和山社長とは旧知の仲。

実は萌音と風太郎は、萌音が高等部時代からのSNS友達でもある。

SNSの無料電話経由で連絡を取った。

萌音が建築のことで相談したいと電話をすれば、仕事中でも会議中でなければいつでも電話に出てくれる風太郎。

萌音が佐和山建設に入社してからは、さすがに自社の社長に対する仕事中の電話は失礼かと思い遠慮していた。

まあ、入社してからの2日間は実際に相談するようなことは全くなかったのだけれど・・・。

『風ちゃん。今いいかな』

『萌音ちゃん、久しぶりの電話だね。嬉しいよ』

仕事を離れると、萌音は風太郎を風ちゃんと呼ぶ。

風太郎と海音は似ても似つかない。

海音の母親は見たことがないが、きっと海音は母親似なのだろうと萌音は信じている。

丸い顔に大きなおなか。

ほんわかと優しい眼差し、棘のない言葉遣いは、男社会で生き残るためにいつも気を張っている萌音にとって癒しの存在だった。

『今から社長室にお伺いしてもよろしいでしょうか?」

『遠慮することはない。君のことは娘のように思っている。秘書には君のことは最初から伝えてあるから遠慮せずにおいで』

荒んでいた萌音の心が凪いでいく。

仕事以外のことを相談するような非常識なことはないだろうが、海音とのことは仕事も絡んでいるのでやむを得ない。

ことを内々に進めるためには、トップである風太郎を通すのが一番波風がたたないだろう。

萌音は意を決して、社長室に向かった。
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