一級建築士の萌える囁き~ツインソウルはお前だけ~
コンコン、と萌音が社長室の扉をノックすると

「どうぞ」

という優しい風太郎の声がした。

「失礼します」

社長室の応接用のテーブルには、萌音の好きな和菓子と紅茶が置かれていた。

「待っていたよ。萌音ちゃんとここで会うのは初めてだね」

相変わらず丸い顔に丸い身体でソファにどっしりと構えている姿は熊のようだ。

萌音がこれまで風太郎と会うときは、長嶺教授の研究室か長嶺教授が同席する建築展示会の流れがほとんどだった。

「海音さん、風ちゃんの息子だったんですね」

「別に隠していたわけではないんだよ。海音は私の息子だということを抜きにして、長嶺教授に認められたいと思っていたし、私もそれには同感だったからね」

萌音は別にその事を責めたくてここに来たわけではない。

「まあ、それはどうでもいいんですが」

「・・・どうでもいいのかい」

クスクスと笑う風太郎だが、萌音は笑えない。

「バディの件です」

本題を持ち出すと、萌音は真剣な表情で風太郎を見つめた。

「海音が君の気に入らないことでもしでかしたかな?」

「いえ、そうではありません。海音さん絡みのことで少々厄介なことに巻き込まれそうな気配がしていまして、私が彼のバディでは益々話がややこしくなるかと・・・」

表情と違って歯切れのない萌音の言葉に、風太郎の顔が不可解だと告げている。

「佐和田産業との契約のことを言っているのかい?」

「ええ、あそこのお嬢さんと海音さんは親しくされているようですが、私との関係を勘ぐってやっかみを受けています。私は当社と佐和田産業の提携の邪魔にはなりたくない。だから海音さんではなく、中武主任を私のバディにしていただきたいんです」

萌音の言葉を聞いて、風太郎がため息をつく。

「海音は何をやっているんだ・・・ちっとも信用されてないじゃないか」

「なんのことですか?」

「いや、こちらの話だ」

風太郎は苦笑いをして肩をすくめた。

「わかった。いいだろう。私から建設設計部の部長にはバディの変更を申し渡そう」

「ありがとうございます」

゛これで公私混同せずに仕事に打ち込める゛

萌音は風太郎に気付かれないようにホッとため息を漏らすと、社長室から立ち去った。



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