一級建築士の萌える囁き~ツインソウルはお前だけ~
「佐和山海音さんはいらっしゃる?」

萌音と別れ、駅のトイレで持ってきていたブランドもののスーツに着替え、化粧と髪を整えた佐和田は佐和山建設本社の受け付けに来ていた。

「佐和山ですか?失礼ですがアポイントメントはございますでしょうか」

「失礼ね。フィアンセの佐和田靖子が来たと伝えてちょうだい」

「フィアンセ、ですか?」

「そうよ」

「少々お待ちくださいませ」

受け付け嬢は、戸惑いながらも内線で海音を呼び出していた。

「申し訳ございません。佐和山は現在席を外しております」

「そんなはずはないわ。さっき彼のバディ・・・いや、今は違うらしいわね。同じ課の社員が課内にいるって言ってたのよ」

「そうは言われましても、本当に不在のようでして」

一歩も引こうとしない佐和田に、受け付け嬢も戸惑っている。

「どうかされましたか?」

「佐和山社長!」

佐和田は声をかけてきた佐和山風太郎に笑顔を向けた。

「海音のフィアンセとは初耳ですが、本社の玄関で適当なことを言ってもらっては困りますね」

しかし、続いて聞こえてきた地を這うような冷たい風太郎の声に、さすがの佐和田もビクッと身体をすくめた。

「いえ、今日海音さんとホテルでお会いしてそのような話になったんです。驚かせて申し訳ありません」

「ほう、それで彼女が私を訪ねてきたのか・・・」

風太郎の呟く声は小さく、佐和田には届いていなかった。

「その話が本当かは海音から聞きますよ。嘘であった場合は・・・」

「嘘じゃありませんわ。証拠だってあります」

佐和田の大きな声に、受け付け嬢も出先から戻ってきた社員も唖然としている。

「佐和田さん、申し訳ないが今は時間がない。後日時間を設けるから、そのときにゆっくり話をしよう。こちらから連絡するから本社へ押し掛けるのはやめてくれないか」

「申し訳ありません。私が軽率でした。これは当社との契約書と海音さんが忘れていった書類です。良く目を通しておくようにお伝えください」

そう言うと、佐和田は風太郎の手を取り、ブンブンと握手をして帰っていった。
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