一級建築士の萌える囁き~ツインソウルはお前だけ~
「あ、ありがとうございました。もう大丈夫ですよ」

さりげなく握られた手を離そうとする萌音に対し、名残惜しそうにそれを受け入れた海音は、

「あ、そうだね。ラッシュのお陰で役得だったよ」

と笑った。

その海音の笑顔に不覚にもキュンとしてしまい、萌音は驚いていた。

事故とはいえ、海音を相手に、公園でのファーストキス、満員電車での壁ドン、手を引かれて帰宅ラッシュの駅構内を移動とか・・・。

゛きっと初めてのことだらけできっと混乱しているんだ゛

と、萌音は自分に言い聞かせた。

佐和山建設本社に着くと、道端桜と夏田しのぶが設計課に残っていた。

「お帰り、流川さん」

しのぶが嬉しそうに駆け寄ってきて、萌音の肩に触れる。

「あ、夏田さんもお疲れ様」

しのぶはようやく同期に会えて嬉しいと言ったが、ちらりと海音を見て真っ赤になっていた。

海音は先程までの甘さを完全に消し去り、自分のデスクに荷物を置くと、今日の取り引き先との書類を整理し始めた。

「あ、佐和山さん、手伝います」

聞こえていないのか、わざとなのか、海音は振り返らない。

「・・・海音さん、お手伝いします」

「ああ、萌音はもう帰りな。書類のまとめは明日で構わないんだ。俺も少ししたら帰るから、お疲れ」

ニコリと笑った海音に、萌音の隣に立つしのぶの顔はなぜだか益々赤くなっていた。
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