一級建築士の萌える囁き~ツインソウルはお前だけ~
「ねえ、ちょっとだけでいいから私に時間を頂戴よ。ね、橋口先生が退職する記念の同窓会だからさ」

海音の腕を引く佐和田は一歩も引きそうにない。

「私、トイレに行ってくるからゆっくり話してていいよ、お・兄・ちゃん」

「ちょ、萌音!」

「ほら、妹さんもああ、言ってることだし、ね、佐和山くん、いいでしょう」

萌音は苦笑いしながら、フルフルと小さく手を振って家具店の出入り口から小走りに出ていった。

海音は慌てて追いかけようとしたが、佐和田の力が思いの外強く、振りほどくことができずに追いかけることができなかった。

ようやく一人になれた・・・。

萌音はトイレの前でため息をひとつついた。

佐和田のように海音に好意を寄せる女性はたくさんいるだろう。

海音と萌音の漢字が一字違いであること、モネとマネのエピソードなどを゛二人の運命゛というなら、佐和山と佐和田だって一字違いだ。

誕生日が一緒だったり、席が隣になったり、血液型が一緒だったり、会えそうもないところで偶然に会ったり・・・。

゛運命って何?数ある偶然の中から、どうやって運命を見分けるの?゛

萌音は恋心について考え始めた今、信じてきたことのあやふやさが、自分の足元を掬おうとしているのをジワジワと感じていた。
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