一途な溺愛王子様
「失礼にもほどがある!」


過去の記憶を遡っていたあたしは、思わず声に出してそう言った。するとカンナが首を傾げながら、あたしの頭をポンポンと撫でた。


「ちょっ、気軽に触んないでよ!」

「わかったわかった。とにかく落ち着いて?」


まるで赤ん坊でもあやすかのように、あたしの顔を覗き込みながら微笑んでいる。この男、一体何を考えているのだろう。


「誰のせいだと〜……」


キッと歯をむき出して怒りを露わにしたあたしには目もくれず、カンナは「んー?」と考え込むように視線を逸らした。


「ひめ、お腹空いてるんでしょ?」

「ちょっと、人を子供みたいに扱わないでくれる? お腹空いてるからイライラしてるわけじゃないんだから」


イライラしてるのはカンナのせいであって、お腹が空いてるからではない。

……いや、正直なところお腹は空いている。けど、それとこれとは別の話だ。


「お腹すくとイライラしやすくなるし、ほら早く帰ろうか」


カンナは再び微笑みながらあたしの腕を掴んだ。


「だからなんであたしがあんたと一緒に帰んなくちゃなんないのよ!」


こら、人の話を聞け!


カンナに掴まれた腕を振り払おうとしたその時、カンナは満面の笑みでこう言った。


「俺、ひめが好きそうなショコラケーキが美味しいお店見つけたんだよね」

「……!」

「あそこ絶対美味しいと思うんだよな。レビューもいいし、口コミでも聞いたことあるし……」


カンナはちらりとあたしを見やった後、眉尻をハの字に下げて、さらにこう一言。


「今日一緒に帰れないんだったら俺、多分この先一生あの店がどこにあるのか思い出せなくなるきがするなぁ」


……なんて、なんて卑怯な。あたしを食べ物で釣ろうとするなんて。

あたしが甘いもの好きで、特にショコラケーキが大好物だって知ってる上でそんなことを言うなんて……!

そんな甘い手になんてーー。


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