一途な溺愛王子様
「言っとくけど、これは事故だぞ。そもそもひめが俺の腕を掴んで走り出したのが始まりだからな!」


妙に気まずい。今まで冗談飛ばしてた相手が急に距離を縮めるとなんとも言えない気持ちだった。


「わかってるよ。ジュースかからないように避けてくれたんでしょ」


ジュースは無残に床に流れ出てしまった。

コウのコーヒーも気がつけば同じく床に転がっている。

とっくに冷めていたとは言え、ジュースを浴びれば制服がシミになるし、べたつく。それを避けてくれたんだと思う。


「ってか、コウはコーヒーかぶってんじゃん」


コウの制服の袖にはコーヒーの茶色いシミ。白いシャツにできた茶色い水玉模様だ。


「ああ、いいよこんなの。シミ取りで洗えば落ちるだろ」

「それ、自分でやるような口ぶりだけどどうせお母さんがするんでしょ?」


なんて揚げ足を取ったら、頭にポコンと拳で叩かれた。


「なぁひめ、この際だから聞くけど。お前、カンナとはどうなってんだよ」


この際だからって何よ。


「別に何もないよ」

「嘘つけ、それならなんでお前らお互い避けてんだ?」

「そんなのカンナに聞けば? あたしがカンナを避けてたのなんて昔からでしょ」

「そういうことじゃなくて……」


コウは頭を掻きながらあたしから視線を逸らした。

だからあたしもコウから視線を逸らして、落とした缶を拾い集めて、近くのゴミ箱に捨てた。


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