転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ～婚約式はロマンスの始まりですか!?～

　支度を終え、ニイファと一緒に皇妃の居間に向かいながら、ヴィオラはひとり考え込んだ。

（……こんなに早く結婚の話が出るなんて、前世では考えたこともなかったな）

　――ヴィオラには、前世の記憶がある。
　それは、日本人として生きていた頃のものだった。第一志望だった大学の合格発表の日。
　おそらく車にはねられたのが死因だろう。記憶に残っているのは、こちらに突っ込んでくる車と、続く全身の痛みだけ。
　生まれ変わったヴィオラに前世の記憶がよみがえったのは、まさにこの国に向かって出発する当日の朝だった。
　もともと祖父と祖母が始めた洋食屋兼カフェの〝アンジェリカ〟は、祖父が亡くなったあと、両親が店を継いだ。
　大きな店ではなかったけれど、近所の人達が集まってくる繁盛店。
　忙しい両親に代わり、祖母に育てられたヴィオラ――前世での名前は咲(さ)綾(あや)だ――は、祖母から和食の基本を学んだ。
　あくまでも家庭料理の範囲でしかなかったが、それでも家族の食事を作ることができる程度の腕はあった。