転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ~婚約式はロマンスの始まりですか!?~
 リンデルトの言葉は淡々としていて、もっと早くセスを手放さなかったことはともかく、斬ったことについては後悔していないようだ。

(……リンデルトにとって、ティアンネ妃はそれほど絶大な存在だというのか)

 息子を自らの手で斬り捨てるほど、忠誠を誓っているとは。だが、その裏にあるリンデルトの感情をリヒャルトは見逃さなかった。

「リンデルト――セスは、生きているぞ」

 沈痛な面持ちだったリンデルトの顔に、わずかに血の色が浮かぶ。

 そこにあらわれた表情を、的確に表現できるだけの言葉をリヒャルトは持ち合わせていなかった。
 喜び、安堵、そして絶望。

「殿下が、私を捕らえにきた時。セスが持っていった証拠が見つかってしまったのだ――まさか、生きていたとは。完全に息の根を止めたつもりでしたが……そうか、生きていたか」

 自分の目的のためには斬らざるを得なかった。それも真実。
 だが、生きていたと聞かされ、これほどにも安堵する。それもまた真実。
 リンデルトが両手で顔を覆う。
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