たとえ君が・・・
「渉・・・?」
多香子が目を覚ます。
「まだ寝てろ。熱あるから、薬持ってくる。」
渉は多香子から体を離す作業のまだ途中で、多香子にそう告げてさらに体を離そうとした。
「行かないで・・・」
多香子が渉に手を伸ばす。

その表情の切なさに、渉の胸が一気に高鳴った。

なんだっていい。

昨日までの考えなど一気に吹き飛び、渉は再び多香子の体を自分の胸の中におさめた。

「体、冷やさないと。」
「寒いから・・・」
「じゃあまだあがるな。熱。」
「平気。」
頭では渉は医師として自分がいま何をするべきかが分かっている。
でも心が多香子に惹きつけられていて動けない。

そんな感情ははじめてだった。
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