たとえ君が・・・
多香子が返事をすると渉はすっと、多香子の耳元に口を近づけた。
「今日、日勤だろ?行っていいか?」
「うん・・・」
「遅くならないように行く。」
「待ってる・・・」

明日は大みそか。残念ながら大みそかの夜は多香子も渉も勤務になっている。
さすがに家庭のある職員を勤務させるわけにもいかず、ここ数年は多香子と渉、ほかに数名の独身スタッフで大みそかや元旦は勤務していた。産婦人科に休みはない。年中無休で病院を経営するためには多少の犠牲は伴うが、そこを負担するのはやはり家庭の無いスタッフが中心を担っている。

特に看護師と助産師の両方の資格を保有していて、手術室にも入ることのできる多香子はこういう時にかなり力になった。渉は正月はほとんど毎年病院に寝泊まりしている。

多香子が前に進みだして間もないが、二人はまめに連絡を交換したり、時間を作ってはお互いの部屋で一緒に過ごしていた。今までの時間を埋めるように、二人はたくさん話をしたり一緒の時間を味わっている。

< 151 / 306 >

この作品をシェア

pagetop