たとえ君が・・・
「渉。」
「多香子ちゃん。」
2人を総合病院の入り口で迎えたのはこの病院のスタッフの中では少し有名な夫婦だった。
夫は和田朝陽。外科ではかなり腕の利く医師。
妻は産科の看護師和田理恵。多香子と同じように助産師としても看護師としても勤務することができて手術の経験も豊富だった。

「患者は現在28歳。軽自動車に息子さんと一緒に乗っていたの。その子は奇跡的にかすり傷程度で助かった。でも患者は頭を強打してしまった。」
多香子は手術の支度をしながら理恵から患者のことを聞いていた。
「臓器提供をすることは本人のたっての希望だったらしいの。ご自身のお姉さんを肝臓の病気で亡くしたらしくてね。ご主人が奥さんの臓器提供は本人のたっての意志だからって。」
「・・・つらいですね。」
「ね・・・。」
2人が現実に切なさを隠しきれずにいるとそこへ渉と朝陽が入ってきた。
「大丈夫か?」
朝陽が理恵に話しかける。
「うん。大丈夫。」
理恵が朝陽に微笑み返した。
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