たとえ君が・・・
多香子はふと自分の下腹部に触れる。そしてため息をつくとカルテを握る手に力を込めて患者なの名前を呼んだ。

「ロボットがさぁ」
いつも通り、多香子がいないところでは多香子の悪い噂が後を絶たない。
「院長と一緒に総合病院から移ってきたっていうけど、院長の愛人だったりしてね。」
「あの二人が外来をしていると患者が緊張するわよね。院長もあの通りのルックスだし、ロボットもものすごい美人だものね。」
「院長の気を引きためにロボットの戦略なのかもしれないわよ?」
「えー。なおさら怖いー。」
白衣のポケットに手を入れて話を聞いていた渉は大きく深呼吸をした。
院長である自分があまり前に出ても余計に多香子の立場を悪くするかもしれないといつも黙っていた。でも、彼女が何をしたというんだ?その疑問が膨らみ、我慢も限界に来ていた。

「211号室の涌井さんの状況は?」
突然現れた院長の姿に看護師たちは動揺した。
「へ?・・・あっ・・・あります。」
渉はナースステーションにあるデスクトップの前に立ち、自分のパスワードを入れた。
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