たとえ君が・・・
看護師たちは自分たちの話を聞かれたのではないかと一気に静かになる。
渉は少しの間カルテを確認しながら、作業をすると
「経過観察、よろしくお願いします。マグネシウムの量を調整したいので、NSTを定期的につけてデータに入力してください。」
「わかりました。」
「それから桜木さん、連続勤務ありがとうございました。疲れたでしょう。」
「いいえ。」
渉からの言葉に桜木が頬を赤らめる。
渉のルックスに看護師はたじたじになることが多い。とはいっても直接話をすることはほとんどなかった。
「それから」
渉はナースステーションの入り口で白衣のポケットに手を再び入れて振り返った。
「あまり噂話は好きではありません。看護師として優秀なみなさんだからこそ、プロとして立ち居振る舞いをしてほしい。せめて院内だけでも。」
そういうと渉は幼さの残る笑顔で「よろしくお願いします。」と頭を下げて再び廊下を歩き出した。

この声を多香子が聞いていることは渉は気づいていなかった。
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