たとえ君が・・・
「大丈夫か?」
渉が布団に横になっている多香子を扇いでいる。
「・・・うん。」
「ほら、水。」
少し体を起こすのを手伝って多香子が水を飲めるようにした。口元にコップの水を運ぶと多香子は少し口に入れた。
「顔真っ赤じゃん。」
多香子は景色と雰囲気に酔ったのか、緊張と高揚とで体が熱くなりすぎたのか、のぼせてしまった。渉が異変に気づいたときにはすでに立ち上がれなくなっていて、雰囲気も何もないほど渉は湯船に多香子が沈まないように必死に救助する事態になった。
「全く・・・こうなる前に言えよ。」
「ごめん・・・」
「・・・ふふっ」
まだぐったりとしている多香子を見ながら渉が吹き出して笑った。
「何よ・・・」
多香子が頬を膨らませていると
「雰囲気もくそもないな。なんか・・・笑える。一生忘れられない初旅行になったわ。」
その言葉にはじめは余計に頬を膨らませていた多香子も吹き出して笑った。
「確かに。」
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