たとえ君が・・・
「多香子さん。」
慶輔の父が話始める。多香子は涙を流しながら慶輔の父をみた。
「多香子さんは慶輔にとって最後の希望だった。命をあきらめず、命に向き合い、あいつが必死に生きることにどん欲になれたからこそ、余命宣告よりも長く生きることができた。病気で絶望を味わっても、結婚して未来に希望を持つことができたのは多香子さんのおかげだ。最後まで息子の笑顔を見ることができたのは多香子さんの力だ。」
「・・・」
「慶輔が病気になって、絶望しかなかった我々にとっても同じだよ。多香子さんは希望だ。今も希望であることは変わらない。これからもずっと。多香子さんは私たちにとっても娘であり、希望だ。」
慶輔の父も目を真っ赤にしている。
「我が子に先立たれる親の気持ちを、多香子さんもわかるだろう?」
多香子は赤ちゃんを失った時のことを思い出す。
「橘さん。」
慶輔の父は渉の方に視線を変えた。
「多香子さんは私たちの娘です。娘の希望になってくれますか?支えになってくれますか?娘を・・・幸せにしてくれますか?」
言葉に詰まりながら慶輔の父がまっすぐに渉を見る。
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