たとえ君が・・・
「じゃあ、いつになったら泣かずに対応できますか?」
「・・・わかりません。」
「瀬戸さんはいつからですか・・・?」
「・・・数年前からです。私にもわかりません。もしも泣きそうになったら看護師を交代することもできます。私が勤務中でしたら呼んでいただいて結構です。」
多香子はそういうと再びパソコンに向かい仕事を始めた。

自分が泣かなくなった理由も、いつから泣かなくなったのかも多香子はわかっている。

5年前のあの日からだ・・・。

多香子は後輩の看護師に悟られないように仕事をして、思い出しそうになる悲しい記憶を封じ込めた。

「瀬戸さん」
その時後ろから渉に呼ばれて多香子は立ち上がった。
「連続勤務お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
「そろそろ帰ります。涌井さんの状態が不安定になったら連絡をください。夜勤は橋本先生ですが、何かあれば。」
「わかりました。」
多香子は渉に頷く。
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