たとえ君が・・・

「珍しいな。お前が俺を呼ぶなんて。」
「そうか？」
渉は朝陽を近所の飲み屋に招いていた。
お酒を飲むこと自体かなり珍しい。

「で？多香子ちゃんをどう支えるかって話か？」
渉は朝陽に子供のことを相談していた。
朝陽は妻の理恵との間に3人目の子供を授かっている。安定期に入ったと報告を受けてから、理恵が2人目を流産したことを聞いた。そのうえで、どう自分は多香子を支えたらいいかを朝陽に聞きたかった。精神的に不安定な多香子をどう支えるかは自分の感情だけでは動けないと思った。
冷静に自分の話を聞いてくれて、多香子のこともわかっている朝陽に相談したかったのだ。
「話したいし、話さなきゃならないってわかってるけど。どう話したらいいか・・・俺の気持ちばっかり押し付けたくないし、でも多香子の気持ちも聞きたいし・・・」
「男はさ、自分の体が痛いわけじゃないし、自分のお腹の中で動くわけでもないし・・・気持ちを100パーセントわかってやれないのがもどかしいよな。この仕事してたってわからないものはわからないんだよ。わかりたいけどさ。」
「そうなんだよ。俺が痛いわけじゃないから・・・余計に痛いんだよ・・・。でも、俺まで痛がれないだろ。支えたいし。守りたいし。強くありたいし。」
渉と朝陽はグイっとビールを飲んだ。