たとえ君が・・・
険悪なムードでも患者が診察室に入ると多香子は笑顔を見せるようになった。

最近、多香子は喜怒哀楽を表情に出すようになった。
これは確実に多香子自身が過去を乗り越えたように思える変化だ。

笑うことや泣くことだけではない。
嬉しい時、楽しい時の微笑みや、怒っている時の不機嫌な顔。
疲れている時の表情。

様々な表情を見るたびに渉はうれしくてたまらない。
こんな顔をして笑うんだった。こんな顔をして怒るんだった。
懐かしい記憶と共に、ちゃんと多香子が前に歩み進められていることを実感できた。


「多香子。」
「名前で呼ばないでください。」
まだ不機嫌なままの多香子は渉にぴしゃりと返事を返す。
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