たとえ君が・・・
「それから。」
渉が少し言葉に詰まる。

「なに?」
多香子は覚悟を決めて話し出しにくそうな渉が言葉を発するタイミングを作った。
「俺は将来子供が欲しい。」
「・・・」

慶輔と多香子の子供を授けたのは渉だ。
がんの治療に入る前に慶輔の精子を凍結させ、余命を宣告されてから未来に希望をもてるようにと多香子の卵子と受精させてその体に宿す処置をしたのも渉だ。

そして、多香子が流産した時に治療したのも渉だ。

ずっと、亡くした赤ちゃんを授かった時から多香子の隣に寄り添ってきた。

だからこそ、一番言いにくい言葉だと多香子も知っている。

でも、いつかは話さなくてはならないことだった。
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