たとえ君が・・・
「皆さん、お疲れ様です。」
渉の方を皆が注目している。
「今、残念ながら退職される職員の方のあいさつをいただきました。本当に心から皆さんに感謝しています。そして、皆さんの仕事にかける想いを尊敬しています。これからもどうぞ体にお気をつけて、新しい場所で活躍されることを願っています。ありがとうございました。そして新しく仲間になってくださる皆さん。どうぞ、よろしくお願いします。私はまだまだ至らないことも多いですが、少しでも働きやすい環境を整えることができるよう精一杯環境の改善に努めますので、遠慮せずに何かあれば声をかけてください。よろしくお願いします。」
院長であっても渉は職員から親しみやすさを感じられていた。
今日はさすがに寝ぐせは立っていないものの、いつもは寝ぐせ頭で現場第一の渉は信頼も大きい。
渉は職員に対して頭を深く下げた後に再び話し始めた。
「私が院長になりもうすぐ6年が経とうとしています。まだまだだなと自分自身の不甲斐なさを感じながら、皆さんがいてくださるからこそ病院を維持できているのだと本当に感謝しています。私も、皆さんに恥じないよう精一杯務めますので、どうぞこれからもよろしくお願いします。」
職員は渉が頭を下げるとにこやかに頭を下げた。

「それから」
渉は急に耳まで真っ赤にして話を切り出した。
多香子にはこれから何を言うかが分かっている。
恥ずかしさと緊張を紛らわせるためにお酒に手を出していた多香子は渉から目をそらした。
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