たとえ君が・・・
念のため玄関のチャイムを鳴らす。
二人で住んでいた思い出の部屋のカギはまだ持っているが離婚の話を進めてからは勝手に家に入ることにためらいを感じるようになった。

返事がなく、前日に訪ねることをメールしてあるからと良助は玄関のカギを開けた。
キーケースは若葉とおそろいのもの。
クリスマスにお互い、おそろいのキーケースをプレゼントし合った。

若葉にはピンクのモチーフ、良助のには青のモチーフがついている。

若葉に見られないようにとカギを開けてすぐに自分のポケットにキーケースをしまった。


玄関の扉を開けると昼間なのに部屋の中がやけに静かだった。
「おじゃまします。」

この家にさんざん『ただいま』と帰っていたのに、おじゃましますって・・・なんて距離を感じる言葉なんだ・・・むなしさを感じながら靴を脱ぐと、若葉のお気に入りの靴が玄関に置いてあった。
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