たとえ君が・・・
渉が会議室へ戻ると多香子はぐったりとして眠っていた。

こうして多香子が過換気症候群の症状を起こすことは珍しい。それでも、慶輔が死んでからは数か月に一度症状が出ていることを渉は知っていた。

多香子の体にそっと持ってきた毛布を掛けて、細い腕を出す。
そのきれいな腕に注射の針を刺すことに少しためらいそうになる。

多香子が少しでも休んでくれるようにと渉は点滴の速さを調節した。

そっと点滴をしている手も毛布の中に入れると渉は多香子の頬に触れた。

5年前よりもかなり痩せた。

こんなつらそうな状況でも涙を流さない多香子。
でも渉にはずっと心の中で流れ続ける多香子の涙に気づいている。

「そんなんじゃ・・・いつか溺れちゃうぞ・・・」
そう言いながら多香子の寝顔を見つめ続けた。
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