たとえ君が・・・
「寒くないか?」
「大丈夫です。」
渉は自分の車に多香子を乗せると暖房を調節した。

「何が食べたい?」
「・・・なんでもいいです。」
「あのなぁ。ここは病院じゃないんだから、敬語やめろ。それと院長って呼ぶのもやめろ。」
「・・・はい。」
多香子と渉は敬語を使わない仲だった。それが慶輔が亡くなってから、同じ病院に勤務するようになって多香子は渉に敬語で話すようになった。
「じゃあ、俺の食べたいもの食べに行くか。」
「はい・・・」
「あのなぁ。はいっていう言葉も敬語だぞ?」
「・・・はい。」
多香子は静かに車の窓から見える景色を見ていた。
「紅葉していてきれいだな。」
「はい・・・」
その葉が散っていくのを見るたびに多香子は慶輔が亡くなった時と同じ季節に、切なさを感じていた。
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