たとえ君が・・・
『俺、お前のこと好きだわ』
『え?』
目の前でオムライスを頬張りながらふと言った渉の言葉に多香子が顔をあげる。
『クリームついてる』
そう言って渉が多香子の口についていたクリームをふき取りぺろりとなめた。
多香子は思わず恥ずかしくて耳まで赤くなる。
『さっき、なんて?』
『だからお前のこと、俺、好きだわ。』
『・・・急に・・・』
『急じゃない。ずっと好きだった。』
渉はそう言って多香子に微笑んだ。
『嘘。』
『嘘なわけないだろ?俺、これでもこんなに一途に誰かのことを大切にしたことないんだけど?』
渉とは一週間に数回一緒に帰ったり、一緒の休みがあると食事をしたりしていた。
多香子が悲しい時も苦しい時も、隣にいてくれるのは渉だ。
涙していると抱きしめてくれる。いつしか多香子も渉を意識して、目で追っていた。
でも二人の関係に名前はなく、多香子は渉がどんな気持ちで自分に良くしてくれているのかが分からなかった。
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