たとえ君が・・・
多香子が驚いて渉の方を見る。
「そばにいたい。」
渉の言葉に多香子は目を丸くして驚いた。
「はなしたくない」
「・・・何言ってるんですか?」
「一緒にいたい。」
「・・・」
渉は多香子の目をまっすぐに見つめる。
「俺じゃダメか?」
切なさを含むその視線に多香子の心がギュッとつかまれたように感じた。

「・・・悪い・・・」
渉はそう言って手を放すと、ポケットに手を入れて廊下を歩き去って行った。


そのポケットの中で、渉は自分の手を握りしめていた。

彼女から笑顔を奪っておいて、そばにいたいなんてムシのいい話だ。
自嘲気味に笑いながら渉は医局へ向かった。
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