【番外編】イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
萌と学のクルーズパニック【side萌】
私、花江萌はロリータファッションブランド『ヴェラ』の社長令嬢。

今日はその新作発表会のために、1500人以上が乗れる豪華巨大クルーズ船に乗っていた。

お母さん、いくらただ発表するんじゃつまらないからって、ここまでするなんて大がかりだなぁ。

私はマリンカラーのロリータドレスに身を包んで、お母さんとパーティーに参加しているお得意様や交友のある資産家の人たちにあいさつをして回った。


「萌、そろそろ休憩してきてもいい? 会場の中、ちょっと熱いんだよね」

「えぇ、でも新作のお披露目会のときにはホールに戻ってきてちょうだいね」


そう言ったのはゴシック・アンド・ロリータ――ゴスロリのダークなドレスを着ているお母さん。


「はぁーい」


私は返事をして、気分転換に甲板に出た。

夜の月明かりを浴びた海は静かに波打って、会場の熱気にあてられた肌を冷ましてくれる。

目を閉じて潮風を感じていると、ふいに後ろで靴音が鳴った。

振り返るときっちりスーツを着こなしている閣下――学が立っていた。


「閣下!」

「その呼び方、ここではやめてくれないか。おかしなやつだと思われるだろう」

「でも……今から学っていうのも、なんかしっくりこないんだよね」


名前で呼ぶのを渋っていると隣に閣下がやってくる。


「呼んでれば慣れるだろ。今すぐ直せ」

「えー」

「えー、じゃない」

「はーい、学」


ああっ、ムズムズする!

私は閣下――学となんとなく甲板の手すりに寄りかかって、海を眺めた。


「かっ……学も外の空気吸いに来たの?」


というか、今日の出席者名簿に目を通してなかったんだけど、学も呼んだんだ。

ということは黎明学園の理事長さんも来てるわけだ。


「あいさつ回りは終わらせた。あとはお前の母君の新作発表を見届けるだけだな」

「母君って……硬い硬いとは思ってたけど、ここまで硬派だとは。武士かーいっ」


思わずツッコミを入れると、学は眉間を指で揉みながら
ちらりと私を見る。


「大声を出すな。頭に響く」

「だって、学っていっつもバカ真面目なんだもん」

「花江、お前は正真正銘のバカだがな」

「うっ」


確かに、テストは毎回赤点で……。

皆勤賞だけが取り柄の再試の常連だけども。


「それは言わない約束でしょ?」

「そんな約束をした覚えはない」

「人でなし! 冷血漢!」

「そこまで言われる筋合いもない」


バッサバッサ私の心を切っていく学に言い返そうとしたとき、船が大きく揺れた。


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