【番外編】イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「やっぱりな。なんで言わなかった」


学の咎めるような視線に射られて、私は目を伏せる。


「だって……ただでさえ、学に迷惑かけちゃってるし、これ以上足を引っ張りたくなかったの」

これ以上、学がケガするような目に遭ったら?

そう思うと胸が痛くて、言い出せなかった。


「迷惑、か。俺たちの関係は、そんなに軽いものだったのか?」

「そんなことは……っ」

「俺は花江に迷惑をかけられても、花江を嫌ったりしない。でもな、ケガをしたのに黙っていられるのは……堪える」


私の足から流れる血を見て、つらそうに眉を寄せる学を見ていたら、なぜかキュッと胸がしめつけられた。


「ごめんね、学……」

「反省しているなら、次からは報告しろ」

「うん、約束する」


私は学に抱えられたまま廊下を進み、階段を上がる。

すると、ようやく最上階の甲板に出ることができた。


「萌!」

私が来るのを待ってくれていたんだろう。

お母さんとお父さんが泣きながら、抱きしめてくる。


「心配かかけてごめんね」


ふたりに再会できて、本当によかった。

ぽろっとと涙がこぼれたとき、学の声が聞こえる。


「父さん、先に救助ボートに乗っていてもよかったのに」

「自分の子供より先に、逃げるわけがないだろう」


学もお父さんと会えたんだ。

私たちは一緒に救助ボートに乗るために、列に並ぶ。

すると、定員の関係で両親とは別のボートに案内された。

それは学も同じだったのか、ふたりで同じ救助ボートに乗り込む。


「まさか、船が沈むなんて……」


海の中に消えていく船を見ながら呟くと、肩になにかがかけられる。

これって、学が着てたジャケットだ。

隣を見ると、学は割れたメガネを胸ポケットにしまっていた。


「着ておけ、夜の海は冷えるからな」

「学……ほんと、人のことばっかりだね。学だって寒いでしょ?」


ただ、どうしようもなく。

胸の奥底からあふれてくる感情に突き動かされるように。

私は学の首に腕を回して、抱き着いた。


「――なっ、花江?」

「萌。萌って、名前で呼んで」


狼狽えている学にくすっと笑いながら、私はもっとしがみついた。

やがて諦めたのか、学は私の耳元でため息をつく。


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