かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「わっ! な、なんだ……夢か」

耳元でスマホのアラーム音がけたたましく鳴り響き、同時に私は飛び起きた。まだ眠っている脳ミソのままアラームを止めて周りを見ると、私は見慣れない部屋にいた。黄金色の朝日がカーテンの隙間から部屋に射しこんで、本日は晴天なりと告げている。

秋に差し掛かった東京は、暑くもなく寒くもなく空気がカラッとしていて過ごしやすい。

そうだ、ここはホテルだったんだ。

突然の帰国ということもあり、まだ日本で住む場所が決まっていなかったため、とりあえずK.Aコンサルティングファームのある有楽町にすぐアクセスできるよう、近場のホテルに数日間滞在することにしていた。

パリのアパートはたまたま引っ越しを考えていた同僚が、私の家具や電化製品諸々とアパート契約を引き継いでくれたおかげで、日本へはほぼ身体ひとつの状態で帰国することができた。
父が住んでいたマンションの解約や、身の回りの処理は叔父が手伝ってくれたけれど、葬儀や遺品整理に追われ、帰国早々目まぐるしい日々に少し気疲れしてしまった。

叔父は北海道でレストランを営んでいる。だから、しょっちゅう簡単に東京に来られる距離じゃない。忙しい合間を縫って、父の遺品はとりあえず叔父が引き取ってくれることになった。

『兄の遺品でなにか必要なものがあればいつでも言ってくれ、困ったことがあればちゃんと言うんだぞ?』

叔父から優しい言葉をかけられて、まだ父が亡くなったという事実を受け入れられない自分に気づく。仕事が忙しくてなかなか父に顔を見せられなかったことをいまさら後悔仕方がない。

お父さん……死んじゃうなんて、いきなり過ぎだよ。
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