かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
K.Aコンサルティングファームは私の滞在しているホテルから、有楽町方面へ十分歩いたところの複合オフィスビル五階にある。実際のプロジェクトでは部署を横断してチームを編成することがほとんどのため、私の場合とくにここという所属部署がない。もちろん総務や人事などのバックオフィスはあるけれど、うちの会社は一般企業とは組織図が少し違う。

加賀美さんのいるオフィスに入ると横並びにデスクが連なり、さほど広くはないけれどざっと見て三十人くらいの社員がパソコンに向かっていた。以前と少しオフィスのレイアウトが変わっていたり、見覚えのない社員もいる。私がここで勤務していたときのデスクには、知らない女性社員が座っていた。

パリへの転勤が決まってここを離れたのは四年前、オフィスの雰囲気そのものは変わっていないけど、なんだか別の会社にいるみたいだった。

「おう、花澤、来たな。お帰り」

きょろきょろと見回していると、後ろから聞き覚えのある声がして振り向く。

「加賀美さん、お久しぶりです。仕事は明日からですけど、一応挨拶に来ました」

「はは、お前全然変わらねぇな」

加賀美さんはここの会社にいるコンサルタントチームの主任で、四十代後半のやり手コンサルタントだ。最後に会ったのは三年前に加賀美さんがパリ支店へ出張で来たとき以来。

「もう、全然変わらないって、それっていつまでたっても子どもっぽいってことですかね?」

昔はしょっちゅう「女なんだからもっと洒落っ気ある恰好しろ」だとか「もっと色っぽい化粧しろ」だとか、仕事では面倒見がよくて頼りになるけれど、そんなセクハラまがいのことを散々言われ続けてうんざりすることにももう慣れた。
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