かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「ただいま」

エレベーターの中で何度も吐き気を堪えながらようやく帰宅する。リビングにはすでに会社から帰ってきて私服に着替えた長嶺さんが待っていた。

「芽衣、どうしたんだ? かなり酔ってるみたいだが……」

平静を装ってもつれそうな足を奮い立たせてみるけれど、長嶺さんに眉を顰められてしまった。

「すみません、遅くなってしまって……仕事が終わってから恭子さんと一緒にいたんです。その、猪瀬君のことで……」

たった二杯だったけど、マティーニを一気に飲んだせいで悪酔いしているのがわかる。少しでも早く酔いを醒ましたくてジャケットを脱ぐと、コップに水を注いでぐっと飲み干した。

「ちょっといつもより飲みすぎちゃったみたいです。だいじょ――」

「本当に今まで佐伯と一緒にいたのか?」

乾いた笑いを浮かべる私と打って変わって、長嶺さんはどことなく険しい顔つきでじっと私を見据えていた。その視線は、まるで私を見透かしているようで思わず言葉に詰まる。
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