かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません

スタッフの人手不足は、経営に大きなダメージを与える。その意味を加賀美さんは言わなくても理解しているようだった。そして加賀美さんは私に視線をじっと向けて静かに言った。

「お前が帰国してここに来たら言おうと思ってたんだが、アリーチェ銀座を建設した長嶺不動産の開発運営管理部部長からじきじきにプロジェクトのオファーが来ている」

「長嶺不動産？」

聞いたことのない会社だ。あまりピンときていない私を見て、加賀美さんは私にアリーチェ銀座の施設概要が記載された折り畳みのパンフレットを手渡した。それをぱらっと広げてみる。

アリーチェ銀座は、“長嶺不動産商業マネジメント株式会社”という大手不動産業の会社が開発計画し管理運営している。建設されてまだ五年という比較的新しい商業施設のようだ。西側に位置する商業棟には地下二階から地上十一階の全十三フロアにファッション、雑貨、食品とレストランなど百二十店舗が出店していて、五階及び屋上階部分には施設のシンボルとなる二つのパブリックスペースを設けている。そして、五階には落ち着いた雰囲気のあるラウンジと、屋上階には噴水が流れるオープンエアーなテラスがあり、夜景観賞にピッタリなデートスポットとなっている。また、建物の南側は住居棟、北東にはオフィス棟がある。

「プロジェクトの要は、お前の親父の店の立て直しだ。まずは店の責任者とヒアリングからだな。部長への挨拶はちゃんと店の下調べをしてから改めろ」

「はい」

「このプロジェクトのチームリーダーは一応俺ってことになってるが……お前中心に動いてもらいたい。この件、任せられるか？」

じっと私を見つめる加賀美さんの目はまるで挑戦状のようだった。おそらく、加賀美さんはこの件を初めから私に任せようと思っていたに違いない。だから、私の頭に拒否の文字はない。

私に父の手助けができるなら……。

「やります。このプロジェクト、私に任せてください」

「そうこなくっちゃな！　お前ならそう言うと思ってた。お前にはクライアントとの橋渡し役になってもらう、通いつめてできるだけ情報を引き出してこい」

私が迷うことなく頷くと、加賀美さんの目がスッと満足げに細められた。