かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
素面だったらもっとうまく説明できたのに。石野さんのことは隠すつもりはなかったけど、結局長嶺さんに誤解されてしまった。

「同業の人だから、つい話し込んでしまって……でも、なにもやましいことは一切ありません」

信じて欲しい一心で目を反らさず、震える声でそう訴えると壁に繋ぎ止められていた腕がゆっくりと解放された。

「……俺は、君にあの男を近づけたくない」

詰めていた息を吐き出すように長嶺さんが言い放つ。

「恭子さんのこともそんなふうに言ってましたよね? 近づけたくないって……どうして――あ、んっ」

黙れ、と言わんばかりに噛みつくように唇を塞がれる。

「や、ながみ……」

「君は俺のものだ。誰にも渡したくない。できるなら、君を部屋に閉じ込めておきたいくらい……」

ブラウスのボタンの合間から熱い手を入れられた瞬間、ブチンとボタンが弾けた。胸元が大きく開かれ、膨らみをまさぐられる。長嶺さんの荒々しい吐息に肌が粟立ち、そしてタイトスカートを一気に捲し上げられると、ぎゅっと彼の腕にしがみついて唇を噛んだ。すると。

「っ……すまない、乱暴にして……俺はなんてことを――」

短く息を呑んで長嶺さんはピタリと動きを止めた。恐る恐る彼を見あげると、ようやく正気に戻ったかのように彼の眦は下がり、悲痛な面持ちで私を見下ろしていた。

「頭を冷やしてくる」

「あ、長嶺さん! 待っ……」

乱れた胸元を整えることも忘れ、長嶺さんを呼び止めるも、彼は振り向きもせずに部屋から出て行ってしまった――。
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