かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「あ、花澤さん、いらっしゃいませ」

お店に行くといつものように売り子さんに出迎えられる。見ると、まだ冷蔵ショーケースの中にはいくつかケーキが残っていた。

よかった! 長嶺さんの好きなショートケーキまだある。

「こんばんは。あの、ショートケーキふたつください」

「ありがとうございます。あの恭子さんに会われます? 事務所にいますよ」

恭子さんいますか?と尋ねる前に先回りした答えが返ってきて、私は笑顔でお礼を言うとケーキを詰めた箱を受け取った。

ん? 事務所にいるの、恭子さんだけじゃないのかな?

薄暗い通路を歩いていると、事務所から誰かの話し声が聞こえてきてふと足を止めた。

「おい、泣くなって」

この声は……長嶺さん?

恭子さんと一緒にいるのが長嶺さんだなんて意外だった。しかもこの時間帯に。

「これが……これが泣かずにいられるもんですか! どうして……? 結婚するなんて言ってなかったじゃない」

え……?
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