かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
――恭子さんに彼氏はいないんですか?
――ええ、いるわよ。すっごく素敵な人でね、できることなら結婚したいって思ってるくらい。
そんなふうにはにかみながら、嬉しそうに話す恭子さんの姿を思い出した。
私、どうして今まで気づかなかったんだろう……馬鹿だよね、鈍感にも程がある。
思わず口に出して自分を罵りそうになり、私は震える片手で口元を抑えた。
恭子さんの彼氏って、長嶺さんのことだったの……?
長嶺さんが私と結婚したいって言ったのは、恭子さんへの想いを断ち切るためだったんだ。
どちらの父親から勧められたのかわからないけれど、長嶺さんが本来結婚したかった相手は、恭子さんだったに違いない。
賭けに負けたからって、いきなり「結婚してくれ」だなんて言ってきた理由が今わかった気がした。それに、長嶺さんと結婚すると聞いたときの恭子さんの表情が浮かない感じだったのは、張り裂けそうな思いにじっと耐えていたからだ。それなのに、のうのうと恭子さんに保証人をお願いしようとしていた自分が腹ただしかった。
恭子さんが自ら保証人になると買って出てくれたのは、彼女なりの覚悟だったのかもしれない。
最低だ、私……。
自分の存在があることで、ふたりを引き裂いてしまったのだ。ふたりの事情を知ってさえいれば、初めから賭けは私の勝ちだった。結婚するなんて言わなければよかったと、後悔しても後の祭りだ。
とにかく、ここを出よう。
閉店して灯りの消える商業棟に追い出されるように、私はケーキの箱を手に持ったまま沈んだ足取りで家に戻った。
――ええ、いるわよ。すっごく素敵な人でね、できることなら結婚したいって思ってるくらい。
そんなふうにはにかみながら、嬉しそうに話す恭子さんの姿を思い出した。
私、どうして今まで気づかなかったんだろう……馬鹿だよね、鈍感にも程がある。
思わず口に出して自分を罵りそうになり、私は震える片手で口元を抑えた。
恭子さんの彼氏って、長嶺さんのことだったの……?
長嶺さんが私と結婚したいって言ったのは、恭子さんへの想いを断ち切るためだったんだ。
どちらの父親から勧められたのかわからないけれど、長嶺さんが本来結婚したかった相手は、恭子さんだったに違いない。
賭けに負けたからって、いきなり「結婚してくれ」だなんて言ってきた理由が今わかった気がした。それに、長嶺さんと結婚すると聞いたときの恭子さんの表情が浮かない感じだったのは、張り裂けそうな思いにじっと耐えていたからだ。それなのに、のうのうと恭子さんに保証人をお願いしようとしていた自分が腹ただしかった。
恭子さんが自ら保証人になると買って出てくれたのは、彼女なりの覚悟だったのかもしれない。
最低だ、私……。
自分の存在があることで、ふたりを引き裂いてしまったのだ。ふたりの事情を知ってさえいれば、初めから賭けは私の勝ちだった。結婚するなんて言わなければよかったと、後悔しても後の祭りだ。
とにかく、ここを出よう。
閉店して灯りの消える商業棟に追い出されるように、私はケーキの箱を手に持ったまま沈んだ足取りで家に戻った。