かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません

「僕がいけなかったんです。それに、あなたが花澤さんの娘さんだって聞いて……長嶺先輩だけじゃなくて、あなたにも……謝らなきゃって……うっ」

お酒のせいもあるのか、今まで上機嫌だった前崎さんが小さく嗚咽をこぼし始めた。

そういえばお父さんがパリで出した店、長嶺さんがコンサルタントとして担当した二年後に閉店したって長嶺さんが言ってたよね？　その原因が……前崎さんなの？

「あ、あの前崎さん……」

「全部、長嶺のせいだよ。あいつが全部悪いんだ」

温度のない声、それに微かな怒りのようなものが混じった口調で石野さんがぼそりと呟くと、睨みつけるようにグラスをじっと見つめた。

「長嶺さんが悪いって、どういうことですか？」

「長嶺は今までパリの会社でコンサルタントとして俺たちと実績を積んできたのに、父親の会社に入るためにすべてを放棄して勝手に帰国したんだ」

眉間に皺を寄せ、そのときのことを思い出しているのか石野さんは忌々しそうに表情を歪めた。