かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
なぜ、父がパリで開いた店が二年で潰れてしまったのか気にはなっていた。閉店に追い込まれたのには、そういう理由があったのだ。

「だから、花澤さんがあんないい加減な男と一緒になるって聞いて驚いた。君は魅力的な人だから、僕が全力で目を覚まさせる必要がある……そのために僕たちは出会ったんだ」

石野さんがいやらしく私の太腿を撫であげる。そして「君もそう思うよね?」と耳元で色っぽく囁かれると、吐息がかかって肩が跳ねた。

「やめてください」

「ふふ、人前でこんなふうにされるのは嫌? けど、ほら、あそこのカップルは今にも服を脱いで絡みだしそうだ。みんな見てないよ」

私が視線を泳がせた隙に、石野さんが私の肩を引き寄せて掠めるように頬にキスをした。

「ッ……な、なにす――」

反射的に身体を捩ったそのときだった。大きな人影が視界を覆い、スッと目の前が暗くなる。

「その手を離せ」

頭の上から低い声がして恐る恐る目を向けると、そこに立っていたのは――。

形のいい眉を顰め、唇を結んでいる長嶺さんが冷えきった目で石野さんを見下ろしていた。

「長嶺さん!?」
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