かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
彼は私に答えることなく無言だった。

え? どうして長嶺さんがここに?

だって、出張から帰ってくるのは明日じゃ……。

こんなに怒りを露わにした彼を見たのは猪瀬君のとき以来だけれど、今はそれ以上に激怒しているように見える。長嶺さんの静かな怒気は、その場の全員を凍りつかせていた。石野さんはいきなりの不意打ちに表情さえ作れず私の肩を抱いたまま目を見開いている。

「その手を離せと言っている。耳が遠くなったか? 俺よりまだ若いだろ?」

「お前……よくここがわかったな。招待した覚えはないんだけどな」

石野さんは動揺を隠すように前髪を掻き上げ後ろへ撫でつけると、不敵に口の端を吊り上げた。

「招待する客はちゃんと選ぶんだな」

長嶺さんが『石野氏、六本木のクリパで女といちゃつきまくり!』とパーティーに来ている誰かが呟いたであろうSNSの画面を印籠のように見せつけると、石野さんは面白くなさそうに小さく舌打ちをした。

おそらく画像の背景でこの場所が特定できたのだろう。石野さんから肩を抱かれているそれを見て、カッと私の頬に熱が集まる。
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