かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
横から口を挟む前崎さんを鋭く制し、石野さんがクツクツと笑みを浮かべると前崎さんはもうそれ以上何も言えなくなって口を噤んだ。

人前で跪くなんてこれ以上の屈辱はない。石野さんはただ悪戯に長嶺さんのプライドをずたずたにしたいだけだ。けれど、長嶺さんは肩で大きく息をつくと拒否の言葉もなく、スッと石野さんの目の前に片膝をついた。

「石野さん、こんなこと……もうやめて」

次は何をさせる気なのかと思うと指先の震えが止まらなくなる。石野さんは目の前に難なく言う通りにした長嶺さんを意外な目で見た後、声を立てて笑い出した。そんな石野さんを長嶺さんは鋭く睨みつける。

「まるで王様気どりだな、これで満足か? こんなことで俺を服従させたつもりか?」

「こいつ……」

長嶺さんの言葉が引き金となり、石野さんは荒々しくローテーブルの上のワインボトルをひったくると、ヴィンテージものだと自慢していたそれを長嶺さんの頭からドボドボとひっかけた。

「石野さんっ!」

咄嗟に私はボトルを奪おうとした。けれど中身は全部長嶺さんの頭に注がれ、もう用済みとばかりに床に転がされた。
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