かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
ここはフランスのパリ、そんなジェスチャーは見慣れている……つもりだったけれど、嫌みのないその仕草と大人の男性を思わせるようなシトラス系のフレグランスに、なぜかドキリと胸が跳ねた。

「Merci」

マスターは無愛想に追加のパナシェをカウンターに載せると、長身の男性が出したコインを掴んで奥へ行ってしまった。

「あ、あの……」

「とりあえず座りな。ここは俺の奢りってことで、乾杯」

緩く波打った黒髪を後ろに掻き上げ、彼は陽気にグラスをカチンと鳴らした。

なんとなく意志の強そうな切れ長の目、彫が深くて高い鼻梁に厚みのある唇。よく見ると、どのパーツも絶妙に整っていて、雄々しい雰囲気の中に上品さが窺える端整な顔立ちをしていた。

「すみません、どうやらここへ来る前にお金をすられてしまったみたいで……お代、ありがとうございました」

促されて私はお礼を言ってから再びスツールに座り直す。

「あの、日本の方ですか?」

「ああ、そうだよ」

見た目は東洋人寄りだけど、手足も長くてどう見ても外国人体型。観光地から離れたこんな郊外で日本人を見かけるのは珍しい。

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