かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
長嶺さんが身体を前のめりにして両肘を太腿に置き、手を顔の前で組む。そしてじっと私を見据えると視線が自然と絡んだ。
「部屋のゴミ箱に無残な姿で捨ててあったのは、婚姻届だろ? 加賀美さんから聞いた。結婚は白紙になったって言ったそうだな? 俺はそんなことを認めた覚えはない」
長嶺さんの目には、破かれた婚姻届への失望、そして怒り、様々な感情が入り乱れている。けれど、その冷静な口調から実際彼がなにを考えているのかは窺い知れない。
室内は適温なのに背中に嫌な汗が浮くようで、私は膝の上で指を立てた。
「私、長嶺さんとは結婚できません」
なにをどう話そうか思案して、重い口から出てきたのはそんな淡白な言葉だった。
「どうして?」
当然そう聞かれるのはわかっていた。ぐっと手を握りしめ、今にも泳ぎだしそうな視線を長嶺さんに向けた。
「だって、長嶺さんには……恭子さんがいるじゃないですか。お父様に勧められたって、まさか私のお父さんじゃないですよね? そうだったら真に受ける必要ないですよ。嫌だな、なんで恭子さんと付き合ってるならそう言ってくれなかったんですか? 長嶺さん、自分の気持ちに嘘なんて……」
今までなんて言おうか迷いに迷っていたのが嘘のように、次から次へと堰を切ったように言葉が出てくる。けれど、最後のほうは声が震えて尻すぼみになってしまった。長嶺さんはと言うと、それを聞いて面食らったような顔をして息を詰めていた。
「部屋のゴミ箱に無残な姿で捨ててあったのは、婚姻届だろ? 加賀美さんから聞いた。結婚は白紙になったって言ったそうだな? 俺はそんなことを認めた覚えはない」
長嶺さんの目には、破かれた婚姻届への失望、そして怒り、様々な感情が入り乱れている。けれど、その冷静な口調から実際彼がなにを考えているのかは窺い知れない。
室内は適温なのに背中に嫌な汗が浮くようで、私は膝の上で指を立てた。
「私、長嶺さんとは結婚できません」
なにをどう話そうか思案して、重い口から出てきたのはそんな淡白な言葉だった。
「どうして?」
当然そう聞かれるのはわかっていた。ぐっと手を握りしめ、今にも泳ぎだしそうな視線を長嶺さんに向けた。
「だって、長嶺さんには……恭子さんがいるじゃないですか。お父様に勧められたって、まさか私のお父さんじゃないですよね? そうだったら真に受ける必要ないですよ。嫌だな、なんで恭子さんと付き合ってるならそう言ってくれなかったんですか? 長嶺さん、自分の気持ちに嘘なんて……」
今までなんて言おうか迷いに迷っていたのが嘘のように、次から次へと堰を切ったように言葉が出てくる。けれど、最後のほうは声が震えて尻すぼみになってしまった。長嶺さんはと言うと、それを聞いて面食らったような顔をして息を詰めていた。