かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
額に掌を押しつけ、はぁと深くため息をついて俯くと長嶺さんが椅子から立ち上がって私の隣に座り直した。

「これで誤解は解けたか?」

「……私、もうなんて言ったらいいか……恭子さんが男性だったなんて衝撃過ぎて。ごめんなさい。まだ混乱してます」

クスクスと笑って長嶺さんが私の手を包み込むように握りしめる。

「それから俺からひとつ、君に聞いてもらいたい話があるんだ」

改まった口調で言われ、ゆっくりと顔をあげると長嶺さんは真摯な眼差しで私を見つめた。

「石野が言っていたことだ。あいつは俺がいい加減で最低な男だと思っているが……」

「あの、私、全然気にして――」

「あいつが君に話したことは全部本当のことだ。俺が君の父上の店を潰してしまったようなものだったんだ」

眉尻を下げ、その悲し気な表情から長嶺さんの懺悔のようなものが窺えて胸が苦しくなる。もう今更の話だ。けれど、長嶺さんがすべてを語ることでクリアになるのなら、と私はじっと黙って耳を傾向けることにした。
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