かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「前崎は安心して仕事を任せられる腹心の後輩だったんだ。けど、二年後に花澤氏の店が閉店したと知って俺は心の底から後悔した。前崎を買いかぶってたのか、とも思った。けど……それでも俺は自分の判断と、前崎のことを信じたかった」
長嶺さんは目を細め、眉間に縦皺を寄せている。私は長嶺さんの手に自分の手を重ねてぎゅっと力を込めた。
「長嶺さん……」
彼がそんなふうに思っていたとき、誰か背中を押してくれた人はいただろうか、間違ってなんかいないって、ちゃんと言ってくれた人はいただろうか、と私はそう思わずにはいられなかった。もし、ひとりで悩んでいたかと思うと胸が締めつけられるようで苦しい。
私がそのとき長嶺さんに会っていたら、そう言ってあげられたのに……。
「ある日、花澤氏から食事に誘われてさ、そのときに俺はすべての失態を謝罪するつもりだった。けど、君の父上は芽衣と同じように本当に心の広い人だったよ。俺のことを一切責めたりしなかった。『日本で地道に頑張る』って、むしろ笑ってくれたんだ。だから、アリーチェ銀座への出店を勧めた。俺が責任を持ってパティスリー・ハナザワを守るってね」
「アリーチェ銀座へ店を出したのは、父の判断じゃなかったんですか?」
初めて聞かされた事実に私は目を丸くした。てっきり父が独断で決めたことだと思っていたのに。
長嶺さんは目を細め、眉間に縦皺を寄せている。私は長嶺さんの手に自分の手を重ねてぎゅっと力を込めた。
「長嶺さん……」
彼がそんなふうに思っていたとき、誰か背中を押してくれた人はいただろうか、間違ってなんかいないって、ちゃんと言ってくれた人はいただろうか、と私はそう思わずにはいられなかった。もし、ひとりで悩んでいたかと思うと胸が締めつけられるようで苦しい。
私がそのとき長嶺さんに会っていたら、そう言ってあげられたのに……。
「ある日、花澤氏から食事に誘われてさ、そのときに俺はすべての失態を謝罪するつもりだった。けど、君の父上は芽衣と同じように本当に心の広い人だったよ。俺のことを一切責めたりしなかった。『日本で地道に頑張る』って、むしろ笑ってくれたんだ。だから、アリーチェ銀座への出店を勧めた。俺が責任を持ってパティスリー・ハナザワを守るってね」
「アリーチェ銀座へ店を出したのは、父の判断じゃなかったんですか?」
初めて聞かされた事実に私は目を丸くした。てっきり父が独断で決めたことだと思っていたのに。